研究成果

新たな森林景観管理システム構築のための視覚心理学的研究

平成9・10年度文部省科学研究補助金 基盤研究(B)(2) 研究成果報告書(平成11年6月)より

1.地域森林景観とは

(1)森林景観に対する2つのアプローチ

日常生活の場における森林景観のありようを考える上で、「地域」との関係を視野に入れるか否かで2通りのアプローチがあり、両者ではその考え方が大きく異なってくる。「地域」との関わりを考慮しない場合には、美しさや傑出性、良し悪しといった総合的な景観評価が中心となるのに対し、「地域」を念頭に置く場合には、地域個性や地域らしさが最も重要な課題となる。

もう少し具体的に述べると、地域との関わりを考慮しないアプローチでは、森林を中心とする景観を一つの画像(視覚像)として切り取り、風致施業に代表されるような伐採面の見え隠れ、画像内の諸要素による構図の収まりやパターンの面白さ、色彩の美しさやコントラスト等、画像の形態が有する価値を分析、評価する。したがって、問題とする森林景観が、東北のものであろうと、九州のものであろうとあまり関係はない。画像としての森林景観を対象とし、その評価を左右する普遍的な要因を、構図論、人間の視知覚特性や社会・時代の価値観との関わりなどの中に見出し、汎用性の高い計画・設計論を目指すアプローチと言える(写真-1)。

一方、地域との関わりを念頭に置くアプローチでは、地域ならではの森林景観、地域らしさを反映した森林景観が問題にされ、その景観的特徴と地域の営みや文化との関係の解明がテーマとなる。例えば、京都の北山スギは特殊な施業により成立している森林であり、その背景には、京都の長い歴史と文化が培った数多くの建築物や庭園との深い関わりがある。つまり京都という地域の歴史や文化が、この施業形態を、ひいては樹幹の見えに特徴のある森林景観を支えてきたと言える(写真-2)。北山のスギ林を東北や九州へ持っていけばその魅力は半減してしまうであろう。したがって、画像としての普遍的な評価よりも、地域個性あるいは地域景観としての特徴がどこにあるのか、そしてそれが地域おける人々と森林との関わりとどのように関係しているのかを明らかにすることに重点が置かれるアプローチと言える。

(2)地域森林景観の重要性

前者のアプローチに関しては、これまでにも徐々にではあるが検討が進められてきた。京都の嵐山あるいは吉野の千本桜に代表される観賞対象としての森林が分析され、要所にあって意識を向けられやすい森林などについて、豊かで良好な森林景観のあり方や計画・設計手法についての検討が行われてきた。しかしながら、地域の人々が日常的に目にし、地域における生活の場を構成する要素としての森林景観の役割やあり方に関しては十分に論議されてきているとは言い難い。

何気なく日々目にしている地域の森林や樹木の景観は、地域の居住者、生活者にとってどの様な意味があり、どの様な役割を果たしているのであろうか。森林は多くの場合、地域の景観の背景となっており、ゲシュタルト心理学で言う「図と地」の関係では、主として「地」を形成している(写真-3)。そのため、その存在が意識されることも少なく、役割についても問題にされてこなかったのであろう。

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写真 1 パターンの美しさや色彩のコントラストなどの評価に関しては、「地域」はあまり関係しない

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写真 2 京都の歴史、文化と深い関わりのある北山の特徴的な森林景観

しかしながら、背景である森林景観の表情が異なれば、地域の雰囲気が大きく違ってくることは容易に想像される。つまり森林景観は背景として機能することが多いため人々に意識され難いが、全体の印象には大きく影響し、地域に生活する人々の地域への愛着や帰属意識にも結びついていると考えられる。地域の人々が、毎日の生活の中で繰り返し目にする景観であり、地域住民の心の中に深く刻み込まれていると言えよう。また、地域で生まれ育った人間にとっては、原風景を構成する重要な要素であり、故郷に対する懐かしさや郷愁を喚起させるものであろう。

本研究で主題とした「地域森林景観」は後者の「地域」との関わりにウェイトを置く考え方に立脚している。もちろん両者とも必要なアプローチであり、どちらが重要かという問いはナンセンスであろう。しかしながら、今後の地域づくりにおいては、地域らしさの表出、個性的な地域景観の形成が大命題となる。森林景観に関しても、地域ならではの景観形成を目指し、それを支える地域独自の森林との関わり方を模索していく必要がある。森林の管理や保全を林業のみに依存せず、生活の場としての森林のあり方を追求するためには後者からのアプローチ、つまり「地域森林景観」の考え方が今後ますます重要になってくると考えている。

2.地域森林景観研究の課題

(1)分析・整理軸

地域森林景観では、地域の個性、地域らしさが問題にされる。地域らしさを保全する、あるいは地域個性をより明確に印象づける森林管理のあり方の解明が究極の目標である。したがって、その地域森林景観の追求に当たっての課題は、

a.地域森林景観の特徴把握のための分析・整理軸を明確にすること、

b.地域の営みや歴史と地域森林景観との関わりを明らかにすること、

の2点と言える。

本報では、調査を開始したばかりの初期段階であるため、まだ仮説的ではあるが、検討中の(a)の分析・整理軸について、取り上げた特徴的な事例を中心に、地域との関わり(b)を交えて、展望を述べてみたい。なお、ここでは地域の人々の日常的な視線を重視し、近景から中景レベル(102〜103m程度)の外景観(森林を外部から眺めた景観)をとりあげ述べることとする。また、本来は地形や森林以外の土地利用との組み合わせも考慮する必要があるが、論点を分かり易くするために、森林のみにスポットを当てて述べることとしたい。

①要素の多様性

まず第一にあげられるのは、森林景観の主要な構成要素である樹木の種類数についての分析・整理軸であろう。林業地では多くの場合、森林景観の構成要素数は限られている。つまり樹種としてはスギあるいはヒノキが中心であり、その構成要素の種数は少ない。しかしながら、都市近郊の里山やアクセスの条件の良い森林では、植栽されている樹木の種類も多様になる。東海道新幹線の車窓から眺められる静岡県中部の里山の景観は、種々の果樹をはじめとする多様な樹種からなる森林景観の一例であろう。その他、限られた面積ではあるが、集落や家屋周辺の森林も樹種数は多い。このように、森林景観を構成する要素である樹木の種類数も、地域森林景観の特徴を把握するうえで基本的な分析・整理軸の一つである。

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写真 3 森林は多くの場合「地」となるが、地域の印象には大きく影響している

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写真 4 スギ林とクヌギ等のシイタケ原木林が特徴的パターンを示す諸塚村のモザイク林

②樹種混交のパターン

混交パターンという点で特徴的な森林景観の典型事例が、宮崎県諸塚村のモザイク林である。南面する山腹にクヌギ林とスギ林がパッチ状に交互に分布しており、見事なモザイク林を形成している(写真-4)。この森林景観を形成し支えているは、村の主要な産業であるシイタケ栽培と林業である。シイタケ栽培の原木供給を目的として管理されているクヌギ林と、高密度の林道網により支えられているスギ林とが混交し、特徴的なパターンを示している。小規模な私有林が多いことや、緩斜面で路網が発達していることなどの地域の諸条件があいまって形成された地域景観と言えよう。このモザイク林は村の主要な集落や道路から眼にする位置に広がっており、村の人々が毎日の生活の背景として広がっている森林景観である。そしてその存在が知られるようになってからは、展望台も設けられている。

この他、各地で山腹の低い位置にスギの人工林が広がり、その上部に広葉樹林が広がるパターンを眼にすることは多い。また、後述する長野県開田村で見られる、農地、集落、草地と森林との位置関係も、地域個性を表わす特徴的なパターンとして取り上げることができよう。

③面的広がりの大きさ

著名な林業地では、スギやヒノキの人工林が大面積にわたって広がっており、林業地を訪れたことを実感させてくれる。こうした面的な広がりの大きさも、森林景観の特徴を分析、整理する軸の一つである。著名林業地のように大面積にわたる森林の広がりが意識されるためには、単に森林という土地利用の面積が広いというだけでは十分ではない。森林が広く広がっていることと同時に、①の要素の多様性が低いこと、つまり樹種が限られていること、ないしは②の混交パターンが一定であることが必要である。したがって、この面的な広がりの大きさは、一定のパターンで広がる均質な森林の面積によって定量的に表わすことができる。

④テクスチュア

テクスチュアとは木目(肌理:きめ)のことで、ものの表面状態を視覚的あるいは触覚的に表わす概念である。景観に対して表情を与え、対象に対する親しみや味わいなど極めて情緒的な効果を含んでいることが指摘されている。森林の外景観にとって、個々の樹冠の連なりが生み出すテクスチュアは、景観の特性を規定し印象を左右する非常に重要な要素である。

ここでは事例として吉野と日田を取り上げてみたい。写真(写真-5、6)に示すように、両地域の典型的と考えられる森林景観を取り上げて比較すると、その表情には差異があるように思われる。日田の場合には、そのテクスチュアを構成する要素である樹冠の形が揃っており、その配列も規則的で、全体的には整然とした印象を受ける。一方、吉野の場合には、日田に比べて樹冠の形状や配列が揃っておらず、バラバラではあるものの柔らか味のある印象を抱かせる。この差異に関してはまだまだ仮説の段階であり、結論づけるまでには、定量的な比較や、典型性、代表性に関する調査など、詳細な検討が必要である。しかしながら、両地域の林業が目指す方向や、それを支える施業形態の差異を考えると、その表現形である森林景観の上記の差異には納得がゆく。

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写真 5 整然とした景観を示す日田のスギ人工林

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写真 6 柔らかいテクスチュアを示す吉野の森林景観

日田が効率の良い用材生産を目指し、形質の良いスギを挿木で植林し、比較的粗植で単伐期施業するのに対し、吉野は完満無節で通直な大径材生産を目指し、実生苗から高密植栽し、利用間伐を繰り返して長伐期に施業する。また、日田では8割以上をスギが占めるのに対し、吉野は適地適作でスギとヒノキを植栽している。こうした両地域の施業形態が先述した各々の森林景観の特徴を支えていると考えられる。

⑤林縁の明瞭性

ヨーロッパ、特に英国の田園景観では林縁の長さ(境界線の複雑さ)が美観の要素の一つとされる。これは牧草地が森林に接し、その境界(エッジ)が強く意識されるためであろう。しかしながら、わが国の場合、森林は水田や畑などと接し、その境界には水路や小径があったり、地形の傾斜地から平地への変化と林縁とが重なるためか、林縁を森林の境界線として強く意識することは少ないように思う。しかも、昭和に入ってから、草地が著しく減少している(この70年間に原野(草地)面積は1/8に減少している)こともその傾向を助長しているのではないか。

写真-7の長野県開田村は、農耕馬である木曽馬と長く共存してきたことが背景となって、森林と農地や集落との間に、放牧地、採草地としての草地が広がっている。草地が森林と接しているため、アルプス的な田園景観を有する場所として、写真家には知られた村である。写真に見るとおり、森林の境界が意識され、その明瞭さが開田村の森林景観の特徴の一つであると言えよう。このように森林が草地と接する場合には、森林境界が地形変化を伴わず、敷地の連続性が意識されるため林縁が明瞭に認識されると考えられる。また、埼玉県三芳町の三富新田も、平地に展開する森林で地形に変化が無いことに加え、林床の管理が優れているため立地の連続性が意識され森林の有無が境界を形成している。このように、森林が草地と接するなど地形が連続していることや、林床が十分に管理されていることによってもたらされる林縁の明瞭性も、各地域の森林景観の特徴を整理・分析する軸の一つと言える。

⑥樹幹の見え方

また、冒頭で述べた京都の北山スギに特徴的に見られる樹幹の見え方も地域森林景観を特徴づける要素の一つであろう。改めて記述するまでもなく、京都の建築や庭園などの文化を支えてきた北山ならではの特徴的な施業体系が、樹幹の見えに特徴のある森林景観として現れたものであり、地域森林景観の最も典型的な事例と言える。また、岐阜県の今須林業地においても、従来からの集約的な施業形態が生み出した森林景観では、樹幹が見える点に特徴を有している。樹幹の見え方の北山との比較に関しては今後の課題であるが、そのパターンには差異があるのでないかと考えている。このような樹幹の見え方のパターンや、樹幹と樹冠の見えの割合などの指標によって、各地域の森林景観の特徴を定性的、定量的に把握することができると考えている。

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写真 7 森林境界が明瞭に認識されることに特徴のある開田村の森林景観

(2)地域森林景観データベース

現時点では、調査・研究の初期段階であるため、まずは各地域における森林景観の特徴や地域相互の差異を明確に把握・表現できる分析・整理軸を開発し、明確化していく作業が最重要課題である。しかしながら、同時に収集した各地域の特徴的な森林景観をストックし、各々の地域森林景観を支えている地域の社会的・自然的情報とともにデータベース化していく作業も重要であると考えている。

各地域が各々に特徴的な森林景観を有しているという認識はまだまだ一般的とは言いがたい。ザーリッシュの森林美学に由来する森林景観は、人工林の機能的な美しさ、つまり理想的な木材生産と森林景観の関わりを問題にしたものであり、その後の森林景観研究もこれに強く影響されて、「地域」の個性や特性という観点からのアプローチはあまり見られない。どの地域の森林が、どの様な表情を有しているのかという情報を収集整理する作業にも取り組んでいく必要があろう。後述するように、地域森林景観は各地の地域づくりにも活用されるべき考え方であり、各地域の森林景観を形成し支えてきた、地域の自然的条件、そして森林経営における施業体系をはじめとする生活の中での森林との関わりについての情報が、森林景観と合わせて整理・ストックされるべきであろう。

<「データベース」構成情報イメージ>

【地域名称】 【地域情報】
1.地域の概況と基礎情報
*地域名、場所 (1)地域の概況
(2)基礎情報
①地形図
【地域森林景観】 ②植生図
③施業管理計画図
*特徴的な地域森林景観 ④空中写真
2.景観現況
*日常生活の場を視点場 (1)概況
とする地域森林景観 (2)特徴
3.景観の管理と形成
*四季折々の景観 (1)景観管理
(2)形成史

3.地域森林景観の計画的活用

(1)森林管理に対する新たな枠組みの必要性

わが国の森林の4割強は人工林である。そもそも国土の2/3が森林であるから、国土全体の約3割もの面積が人工林におおわれている。この人手の入った森林の管理は、従来、林業・農業に依存してきた。特に、林業という産業と、それに従事する一部の人々に依存してきたと言ってよい。しかしながら、昨今の様々な社会的経済的事情から、多くの人工林の管理を林業およびそれに従事する一部の技術者のみに依存することは難しくなってきている。都市住民をはじめ、多くの人々、最終的には国民全体による管理を考えていく必要があろう。つまり、森林を「木材生産の場」としてだけではなく、地域住民はもちろん都市生活者をも含めて、人々にとっての「生活の場」として認識し、管理していく必要が出てきたと考えている。

こうした生活の場としての森林について考えていく上では、森林景観のあり方に関する検討が不可欠である。しかしながら森林を生活の場として捉える視点からの森林景観に関する知見のストックは、先行している都市景観に対する取組みの長い歴史を考えると、まだまだ歴史は浅く緒についたばかりにすぎない。

しかしながら、森林の変容は近年ますます進んでいる。林業による森林の経営が難しくなってきたことや、農業や農山村の生活における周辺山林との関わりに必然性がなくなったことにより、従来の地域森林景観を形成しきた森林と人々との関わりが希薄になってきてた。その結果、地域らしさを支える森林景観の特徴が曖昧になり、地域の個性的景観が失われていくことが危惧される。地域森林景観を維持するためには、前節で述べた分析軸等を用いて、どこに特徴があるのかを明確にするとともに、それを支えるための新たな仕組みの構築を急がねばならない。

(2)新たなパラダイムとしての地域森林景観

こうした状況を勘案すると、地域森林景観を森林管理の新たなパラダイムとして位置づける時期に来ていると考えている。つまり木材生産の結果として現出する森林の様相をそのまま受け入れるだけではなく、地域森林景観の形成自身を目的化し、その実現のための方策(仕組み)を検討するという考え方である。その方策は、従来からの林業に囚われる必要はない。保全制度の創設でも、観光・レクリエーション的な視点でも、またトラストや地場の諸産業との関わりに仕組みを見いだしてもよい。

例えば、歴史的な街並景観で取り組まれているように、森林景観自身を保全することも考えてよいのではないか。つまり重要な景観として地区指定を行い、保全に向けての優遇措置がとられる制度事業の創設なども検討される必要があろう。ただしその際、都市景観との差異にも留意する必要がある。都市景観の場合には、景観に手を加えることに対するコントロールを目的とするのに対し、森林景観の場合はむしろ手を入れることを促すことを目的とする点である。森林景観は生物素材を基本的な構成要素としていることから、動的であることに特徴があり、森林景観を保全するためには、形成・管理してきたシステムをも合わせて保全せねばならない。このように、先行の都市景観に関する制度なども参考にしながら、地域森林景観ならではの景観管理方策を構築してゆく必要がある。

いずれにせよ、こうした地域森林景観の保全、あるいは回復、創造などが、地域の状況に応じて検討される必要がある。神宮備林としての歴史を持つ赤沢自然休養林の優れた森林景観などは、大径樹を長伐期で育てるための施業体系とともに保全すべきであろう。そして先述した開田村では、観光・レクリエーションの視点から木曽馬を新たに位置づけ、草地を回復して、森林や農地と一体化した地域景観の再生を試みる検討が行われている。また、現代の社会状況に応じた森林との新たな関係を築き、新らしい森林景観を創出することも考えられよう。

このような地域森林景観の保全、再生、創造は、地域の人々によって意思決定され、そして、その実現に向けて森林との親密な関わりが模索される必要がある。地域森林景観が地域の人々と森林との関わりの表現形であることは忘れてはならない。豊かで個性的な地域森林景観の形成を目的としつつも、その景観を形成し支える方策として、地域の人々と森林との関わりが構築され良好な関係を促すことが重要な課題である。人間の目は単に表面的な景観の美醜をとらえるだけではない。景観の中にそれを形成した背景としての森林と地域の人々との関係の豊かさをも鋭敏に感じとる。地域の人々の意識が森林から離れ、親密な関係が築かれていなければ、森林景観もまた豊かさを伴わないと考えている。この「親密な関係の構築」が容易に実現されるとは思えないが、むしろ困難であるからこそ従来の仕組みに囚われず、新たな視点をから自由に発想し、様々に試みられるべきであろう。その際、地域森林景観というパラダイムの導入によって、目標を具体的に設定し、戦略的に試みていく糸口を与えてくれるものと考えている。

いずれにせよ、個性的で豊かな森林景観を形成するためには、まずは森林景観のどこに特徴があり、それがどの様に形成されてきたのかを知ることから始める必要がある。そのためには、各地の地域森林景観の特徴を把握する手法の開発と、その特徴を支えてきた地域ならではの森林との関わりに関する知見をストックしていく必要がある。そして各地域の地域らしさを顕在化させるような森林管理のあり方について論議を深めて行くことが重要であると考えている。

1.はじめに

今回、各地域の森林景観の特徴とその形成を明らかにすることを行ったが、それとともに、これらのデータを継続的にストックすることができ、必要な時に誰もが容易に情報を得ることの出来るシステムが必要となってきた。しかし、本テーマが森林景観を対象としたものであり、その地域の概要、景観の特徴、景観の管理と特性などを包括的なものとして捉えているため、これらの情報を文字により理解を求めるのは難しい。そこで、実際の各地域の森林景観画像を用いた画像データベース化を試みることとした。

2.一般的な画像データベースについて

(1)画像データベース化の目的

画像データベースを構築する意味として、

1)大量のデータの管理、保管、整理をおこなう、2)データの二次利用を目的とする、3)プレゼンを意識した構築、4)ある意志決定のための構築という4点があげられる。

具体的には、

大量の画像データが拡散し、紛失してしまうことを防ぎ、必要な時に必要なデータのあり場所を知ることを目的とする。デジタルカメラ画像のような、紙焼きされていないデータは便利な反面、非常に四散しやすく、紛失したり誤って消去してしまうことも多い。しかしデータベース化することにより、それらの欠点を補うことが出来る。

ある種の大量にストックしておいた画像データの中から、後日必要な時に必要なデー、タを選択したうえで様々な方面に用いるという使い方。

ある種の情報をビジュアルに構築して、対象物の系統的成り立ちを第三者に具体的に明示する道具として用いる。

構築された大量の画像データを何らかの形で比較、検討し、その中から新しいコンセプトを打ち出すことを行い、その結果を何らかの意志決定に利用しようとするもの。

といった目的のために用いられる。

(2)データベース利用のステップ

一般的な画像データベース利用する作業手順は以下の通りである。

まず、特定のファイル名やキーワードなどで検索を行う。

検索結果として、画像・及び文字情報の表示。

画像、及び文字情報を確認。場合によっては2)に戻って再検索。

検討の結果、画像の二次利用、画像比較などによる意志決定などを行う。

必要とする画像データの考察

検索開始

検索結果の表示       フィードバック

画像の確認及び検討

得られた画像の二次利用

図-1

画像データベース利用の流れ

(3)画像データを扱う上での注意すべき点

データのクオリティ

データの大きさ

ファイルフォーマットについて

データの容量

著作権について

一般に、データベースを構築する際、画像はきれいなことにこしたことはないといわれるが、どの程度の色数が必要とされているのか。色数の増加に伴うデータ量の増加も考慮に入れる。

画像データを取り込む際に、後々の二次利用、印刷のことなども考慮して高解像度な画像が求められることが多いが、モニタで上で見る時は解像度を高くしてしまうと画面に入りきらなくなってしまい、不都合が出てくる。また、大きすぎる画像データは開くのにも時間がかかり、メモリも多く必要で、実際の画像データベースとしての利用には現実的でなくなる。

様々な画像フォーマットが存在し、同一の画像でも、それぞれのフォーマットによってデータ容量が異なる。どの形式が、データベース構築に際してふさわしいかを考慮する必要性がある。

上記のように色数・解像度・フォーマットの違いによってデータの量はかなり異なるため、画像データベースとして扱うのに適当な容量を考える必要がある。

などの注意すべき点がある。

以上のような技術的な問題点のほかに、知的生産物に関する権利、著作権の問題も考

慮しなくてはならないこと。

3.森林景観への適用

今回、地域森林景観を画像データベース化するに当たって、当初は情報の共有という点から、誰もが気軽にアクセスできるインターネットに着目していた。

将来的にホームページを開設し、自由に森林景観画像が検索できるシステム作りを考慮することしていたが、地域森林景観に関する研究の蓄積の必要性といった点を考える必要が生じ、これについて考察した結果、公開と蓄積という二系統について画像・文字データを整理する必要が生じてきた。

そこで、インターネットによる公開を前提にしたデータベース造りと、研究の蓄積を目的とした、非公開のデータベースの二つについて、データのフォーマット・検索方法・保管場所という三つの点を中心に考察していくこととした。

(1) 公開用データベース

(1)-1 データのフォーマット

まず、ブラウザを用いてインターネット上で、森林景観画像、及び文字情報を検索するという前提があるため、その対象となる画像、及び文字情報の情報量の大きさ、見た目の大きさを考える必要がある。

画像の色数・解像度・フォーマットを多方面から考察した結果、解像度は75dpiにすることとした。これは、VGA(640×480)サイズのモニタで全画面表示出来、一覧することが出来るという利点による。

次に色数についてだが、森林景観という自然を対象とした景観であり、その景観を構成するコントラストや、テクスチャーが視認出来て初めて、それらの景観のもつ地域性や歴史的展開などの文字情報が具体化され、理解が深まるものと考えられる。そのありのままの景観を伝えるため、フルカラー、もしくはそれに準ずる色数で表示することとする。

一見この事は画像の解像度を落としていることと矛盾するかも知れないが、色数を増やすにあたって、解像度を2倍にすると、データの容量が4倍になるのに比較すると、膨大なデータ量の増加を伴わないことなどが理由としてあげられる。

最後に、データのフォーマットだが、これは通常インターネットの世界で画像の配信に多く用いられるJPEG(Joint Photographic Experts Group)を採用することとした。

これはフルカラー画像の圧縮を目的として作られた圧縮画像方式で、標準では10〜50%の圧縮がなされるようであるが、圧縮率が高くなると画質が低下するという欠点も持つが、こういった目的のためには現在のところもっとも有効なフォーマットだと思われる。

(1)-2 検索方法

次に検索の方法について、話を進めると、タイプとしては地図上より目的の森林景観とその特徴を検索する方法(地図上検索)と、キーワードを入力することによって必要とする文字、及び画像情報を検索する方法(キーワード検索)とに分けることができる。

前者はまず、日本地図上(図-2)に配置されたサムネイル(縮小写真)(図-3)をダブルクリックすることにより、その地域の森林景観の文字情報と、その地域の画像が地域森林景観を代表するデータとして表示される仕組みになっている。(図-4)

さらに、詳細に各々の画像を確認したい場合、各々のサムネイルをダブルクリックすることによって、さらに詳細な画像を閲覧することができるようになっている。(図-5)

後者は、文字検索専用のフォーム(図-6)を作り、それに必要なキーワード、及び文字情報を入力することによって効率の良い情報の検索を目指すものである。

フォームを実行することにより、各画像にコメントされた文字を拾って、結果として画像データと文字が表示される。このデータは、やはりサムネイル状になっており、この画像をダブルクリックすることによって、さらに拡大した森林景観画像を見ることができ、詳細な画像情報を得ることができる。

地図上検索は対象の概要を把握するのに適している。キーワード検索は与えられた条件から、効率よくデータを検索するということにおいて威力を発揮する。

以上のようにこの二つの検索システムとその概要を(図-7)に示す。

このような検索システムを構築することにより、公開用データベースにおいて、順次増加するであろう、画像に対処可能な効率のよい検索を行うことができる。

図-2                   図-3

配置地図                日田林業地拡大図

図-4                  図-5

地域森林景観と文字情報              拡大写真

図-6

文字検索システムインターフェイス

(1)-3 保存方法

ホームページに載せ、インターネットで公開するという目的のため、保存、公開するためWebサーバが必要となる。具体的には、東京大学農学部演習林付属のコンピュータ(ホスト名“yosaku”)上に展開し、管理してゆくことが必要となる。

地図検索                   文字列検索

入力フォームに

全体図                   キーワードを入力

地域サムネイル画像の選択                検索実行

F・B

検索された結果の表示

サムネイル画像とコメント

選択された各地域森林景観

の概要とサムネイル画像の表示    リンク

サムネイル画像の選択

検索結果の二次的利用

画像の拡大表示

図-7

公開データベース検索概念図

(2) 非公開データベース

(2)-1 データのフォーマット

研究の蓄積として、画像データを管理、保管、整理し、後々の研究材料としてストックしていくことを目的とする。これは情報の共有ということを目的としてるわけではないので、素材としての画像を中心に整理していく。

具体的には、色数はフルカラー、解像度は150dpi、フォーマットは様々なフォーマットに画像の加工がしやすいということから、Windows標準のBMP(BitMaP)形式を採用することする。JPEG形式に比べかなり容量を必要とするが、Web上で配信することを考慮していないため、保存用のデータの容量としては適当であると思われる。表-1は同一画像を、同一の解像度でデジタル化した際の画像フォーマットの違いによる、データ容量の相違である。

表-1 画像フォーマットの違いによるデータの容量の相違

画像フォーマット 容量
BMP(Bitmap) 1.54MB
JPEG 25.9KB

(2)-2 検索

写真一枚一枚に、画像を登録する際に同時に、撮影の日付、キーワード、データ名などの文字列、カラーラベルを登録し、後に検索可能となるようにする。(図-8)これにより、後に様々な方式により必要な情報を検索することが出来る。図-9はキーワードにより5枚の日田林業地の写真よりその中の一枚の画像をを検索した例である。

この形は一般的なデータベースと呼ばれるシステム(図-1参照)と同義であり、閲覧にはデータベース用のソフトが必要となる。以下の図-8、9は日田林業地をデータベースソフトであるグランミュゼを使用して、画像データを検索・閲覧している。

図-8                     図-9

キーワードによる検索前              検索結果の表示

(2)-3 保存方法

保存するメディアは、その性質上持ち運びできるものが適当であり、耐性、コスト、容量といった多面的な点から見て、現在のところCD-R(記録容量640MB)がもっともデータの保存に適しているものと思われる。

なお、公開用と蓄積用との関係を下の表-2にまとめた。

表-2 公開用データベースと蓄積用データベースとの比較

公開用データベース 蓄積用データベース
目的 情報の共有 情報の蓄積
重視 容量 画質
閲覧ソフト インターネットブラウザ データベースソフト
色数 フルカラー(圧縮) フルカラー(無圧縮)
フォーマット JPEG BMP
解像度 最大75dpi 最大150dpi
保存場所 Webサーバ CD-R等

4.まとめ

以上、今回地域森林景観を取りまとめるにあたって、画像と文字情報のデータベース化を試みた。その過程において、公開用のデータベースと蓄積用の非公開用データベースの二タイプの必要性が明らかになった。

その他に、幾つかの問題点も明らかになった。データが少ない上での文字列検索はあまり、効果的とは言えず、今後の継続的な情報のストックが望まれる。対象が森林景観という特殊性から、その特長を的確に表現するような検索語の設定に十分考慮することも必要である。

また、公開用と蓄積用とでは、結果を二次的な利用に使用するという目的はほぼ同一であるが、存在意義・使い方・利用対象は異なる。、そのことを留意し、それぞれの特性を考慮した上でシステムの構築を進めなくてはならないといえる。

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published on 2008-3-26
©2008 Laboratory of Forest Landscape Planning and Design
東京大学大学院 農学生命科学研究科 森林科学専攻 森林風致計画学研究室